大きく咳払いをする。
(こんなことで動揺する訳がない)
また、大きく咳払いをする。
(・・・調べるのではなかった)
気が付くまでにどうか、顔の赤みが引くことを願って。
乙女の憂鬱、儚くもがな。
あわやと言うところで抱きとめた。抱きとめ損ねていれば、石の床に顔面を叩きつけていただろう。
そうならずよかったと、スネイプはほっと胸を撫で下ろした。
この青ざめた顔に青あざでも出来ようものなら目も当てられない、と倒れた拍子に顔にかぶさった髪を整え直してやる。
腕の中の少女を見やれば、苦悶の表情を浮かべて、しっとりと額には汗が滲んでいる。
(立ち上がった瞬間、彼女は酷く怯えた顔をした)
生徒に怯えられるのは慣れている、気にとめるような事ではないが何故か少し胸に苦いものが込上げた。
彼女が怯えた真意はわからないが、きっと追い出されるとでも思ったのだろう。
無論、あのような理由で授業中に聞きに来たとなれば、間違いなく追い出す。
(勿論しっかりと減点をして、だ)
だが、額に冷や汗を滲ませ、青白い肌を震わせていたのだ、そんな事出来ようもない。
まあ、理由を頑なに言わない事が癪に障ったので少し嫌味を言った訳だが、
"薬は出せないが、何か気分がよくなるような物を持ってこよう"そう口に出そうとした瞬間、彼女は倒れたのだ。
(よくもまあ、病気ではないと断言出来た物だ、これが病気でなければなんだ)
ぐったりとする彼女を抱き上げ、二人掛けのソファへと寝かせた。
マダム・ポンフリーがいないのであれば、医務室へ連れて行っても同じ事、
だが原因がわからないのだから、ヘタに何か飲ませる訳にもいかない。
(酷い顔だ・・・)
青い顔をじっと見ているとふと、同じ様に辛そうな顔に昔、出くわしたような気がした。
いつだったろうと、思い巡らせると、奥底に閉じ込めていた、ある記憶に思い当たった。
(・・・あれは、学生の時だ)
リリー・エバンスが、青ざめた表情で、理由を聞かずに調合を手伝って欲しいと言ってきた事があった。
スラグホーンのお気に入りで、魔法薬学に秀でていた彼女がなぜ手伝いなど、と思いながら、
体調が悪いからだろうと納得し、おぼつかない調合作業を横で手伝った。
(確かあの時も、ただの酷い腹痛だと言っていた)
ただの腹痛にしては詳しい理由を聞くのを頑なに拒んだし、なぜスラグホーンに手伝って貰わないのかも不思議だった、
逆算して材料を本を調べれば、何のための魔法薬だったのかわかるだろうと思っていたのだが、
調べたら絶交だと言い張られてしまえば、渋々諦めるしかなかった。
(確かあの時の材料は、・・・ヨモギとミコドラの根、キコの実、後はトカゲの・・・)
スネイプは本棚へ向かい、『完全保存版 これでアナタも薬学博士!〜基本的な体調不良改善編〜』という一冊の本を手に取った。
身体に関する薬学の本に載っているはずであろうと、材料を頼りに本をめくる。
(ヨモギにミコドラ・・・・・・あった、これか)
見つけたページに目を通したスネイプの身体が、跳ねるように強ばった。
"もし調べたら、絶対に私わかるんですからね!"
凄い形相でリリーはそう言っていたが、ただの脅しだと思っていた。
だがこれは、当時こっそり調べでもしていたら、確実にばれたに違いない。
パタンと本を閉じ、あった場所へ戻すスネイプの顔は、夕焼けに染まったようで。
ひとつ、大きく咳払いをする。
言わずともがな、この部屋に窓はない。
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かなりアホっぽい本ですみません・・・
いつのまにやら連載に。NEXTボタンを設置しなければ
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