いくらなんでも、アレでソレなので鎮痛剤ください!のような訳のわからない理由で

あの人から何かを貰おうだなんて、私の考えが甘かったの。
















乙女の憂鬱、気が付くはずも無く

















走るたびに鈍い痛みがじわじわと身を締上げる、そんな気さえする。
遠い道のりではない筈なのに、なぜだかいつもより何倍も何倍も遠い気がするのは、
私の走るスピードが極端に遅いからなのか、痛みに頭が朦朧としているからなのか。


身を切る思いで薄暗くひんやりとした地下室、セブルス・スネイプ教授の部屋へとたどり着いた。
もし先生がここにいなければアウト、諦めて授業へ向かうほか無い。
どうか先生がいますようにと強く祈りながら、小刻みに震える手を持ち上げ扉をノックした。

コンコンという軽い音は地下に響いて共鳴する。
数秒(私には数分に感じられたけれど)の後、 「入りたまえ」という低いバリトンヴォイスが聞こえた。
ほっと胸をなでおろす、これでこの痛みから解放されるのだと、安堵した。
だがそれは甘い考えだと、この時はどうして気が付かなかったのだろう。


「失礼します」


ギィと大きく音を立てながら扉を開け、遠慮がちに中を覗き込むと、深くソファに腰掛けて書類に目を通しているスネイプ先生と目が合った。
ちらりとスネイプ先生の部屋に掛かっている時計に目をやると、もう授業は始まっている時間だった。
スネイプ先生が私を見た際、驚いたように目を見開いたのは、授業中の生徒がなぜこの場にいるのだろうと、思ったからに違いない。





「我輩が思うに、今はもう授業中だと思うのだが?Ms.

「えっと・・・はい、その通りです先生。あの、でも・・・ッ」





なんと言えばいいのだろう。
この痛みを取り除きたい一心でここに来たのはいいものの、
先生と言えども男の人に「生理なんです」なんて恥ずかしくて口が裂けても言いたくない。
そんな事を言う位なら、数時間我慢してマダムポンフリーを待った方がマシだ。・・・でも待てない。





「でも、なんだね?何か先生からの言伝でも持ってきた訳でもあるまいな?」





手にしていた書類をデスクへ置き、訝しげな瞳で凝視している。





「いえ!そういう訳でもなくて、あの、えっと・・・鎮痛剤を、頂けないかと・・・」

「鎮痛剤?どこか具合が悪ければ医務室へ行くものだろう。なぜ我輩に?」




訝しげな瞳に加えて、眉間に深くシワを寄せた。心なしか声もワントーン落ちた気がする。
しっかりとした理由を述べなければきっと怒って叩き出されてしまうに違いない。
でもいったいどうやってソレに触れずに理由を話せばいいのか、
鈍い痛みが酷くなり頭までガンガンと痛みで響いている今は、何も思い浮かばない。
じんわりと冷や汗が滲むのを感じた。





「マダムポンフリーが不在で、その・・・痛みに耐えられないので先生に言えば頂けるかと」

「その痛みとやらはどこの痛みなのだね。原因はわかっているのか?」

「主だったところはお腹で、酷くなって頭も痛いし吐き気もするんです・・・」





これまた深く眉間にシワがよった。私は癒者ではない!なんて言い出しそうな表情だ。
きっと鎮痛剤でも色々なものがあるから、症状だけは伝えたが、原因には触れたくなかった。
聞き返されても答えられない、答えなければきっと、薬なんて渡してくれない。
無理して走ったからだろうか、足がふらついてきた。





「我輩は癒者ではない。切り傷ならまだしも、安易に薬など渡せる訳がないだろう?」

「でも!ちゃんと、あの・・・原因はわかってるんです!病気とかでは、なくて・・・」

「病気ではない?では何なのだ」

「・・・言え、ません」





今まで以上に眉間にシワが深く刻まれ、スネイプ先生はソファから立ち上がりこちらへ足を進めた。
きっとグリフィンドールの減点を言い渡されて、「授業に戻れ」と追い出されるに違いない。
ドクドクと痛みが脈打つのがわかる、もう立っていられないほど、腹部の鉛は大きく膨れ上がっている。
この痛みに耐えるくらいなら、いっそ口に出してしまった方が・・・





「人に物を頼む際は、明確な理由を述べるのが普通だとは思わないか? Ms.・・・Ms.?!!」





ガクリと膝から崩れ落ちるように意識が遠のくのを感じた、
自分の身体じゃなくなるような感覚、全身を床に打ち付ける痛みを思いぎゅっと目を閉じた。
しかし意識が途絶える最中に感じたものは、ふわりと頬をかすめた何かと、むせ返る様な薬品の香りだった。












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また、続いてしまった。




   
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