「これは、とても、一大事だわ・・・」

ホグワーツに入学して数年がたったが、こんな重大な事態に陥ったことはない。
はガランとした医務室の扉を強く強く握った。















乙女の憂鬱
















「・・・ッん・・・」

は腹部への鈍痛で目が覚めた。この鈍い痛みには覚えがある。
覚えはあるが、予定ではあと一週間先のはずではなかっただろうか、とカレンダーを振り返る。
そう、女子にはおなじみの、月に一度・・・いや数日の"口には中々だせないアノ日"だ。
ただ幸いな事に私の場合は体調的な不調はさほどひどくはないので、この少しの腹部の違和感を2日ほど我慢すればいいだけの事。

ちょっと早くこの憂鬱な日が来てしまったのは、
きっと大量の宿題に追われて生活リズムが狂ったせいだろう、それにこれは病気ではないのだし。
特に気に留めるでもなく、鈍痛を堪えつつ、いつものように過ごす。





(はずだった)






「ねえ次の教室へ行かないと・・・って顔が真っ青よ!」


マクゴガナル先生の変身術の授業が終わり、皆ばたばたと次の授業へ向かうべく友達と喋りながら教室を後にしていた。
そんな中動こうとしない私の顔を覗き込んでハーマイオニーが悲鳴のように唸った。


「えっと実は今日・・・」


周りに男の子(主にハリーやロン)がいない事を確かめて、ハーマイオニーにひそひそと耳うちをした。
するとハーマイオニーはなるほどという顔をしたと思えば、私に任せておきなさい!と猛ダッシュで教室を出た。
私はというと、その猛ダッシュについていけないほど元気を失っていて、ゆっくりとふらふらと
ハーマイオニーがダッシュで向かったグリフィンドール寮へと向かった。


(まさかこんなにも体調が悪化するなんて思わなかった・・・)


ここ数年で一番の腹痛、重い鉛を下腹部にくくりつけた様な痛みは、歩く度に吐き気へと変わる。
自分でも顔から血の気が失せているのがわかるくらいで、体温までもひんやりと、額にはじんわりと冷や汗が滲む。
ぐったりとここへ倒れこんでしまいたいと、廊下の壁に手をついてハーマイオニーを待った。
すぐにパタパタとこちらへ向かってくるハーマイオニーが見えたが、その表情は申し訳なさそうで、


「ごめんなさい、私が煎じた鎮痛剤があると思ったんだけど、切らしていたみたい・・・」


しゅんと項垂れてしまった。どうやらハーマイオニーは"口には出しにくいアノ日"では
相当困った症状になるらしく強力な鎮痛剤を常備していたはずだったらしい。それが運悪く切れていた。


「ありがとうハーマイオニー、大丈夫だよほら、病気じゃないし」


不安にさせまいとふにゃっと笑っては見たが、どうやら調子の悪そうな顔色では逆効果だったようで。
ハーマイオニーは余計に心配気な顔になってしまった。


「でもその辛さは私すごくすごくわかるのよ、とても辛いわ。
 そうよ、マダムポンフリーに相談するといいわ!私も自分で薬を用意出来るまではよくお世話になっていたから!」


そうか、その手があったか!病気ではないので"医務室に行く"なんて発想はまったくなかった。
でも体調が悪い人を受け入れるのが医務室だもの!と、この鈍い痛みを取り除ける光を感じた途端、
痛みは変わらないものの、気持ちが楽になるのを感じた。


「授業まであと10分あるわ、急げば全然間に合うし、ちょっと遅れても私が言っておくから!」


ハーマイオニーにお礼を言って、急いで医務室まで走った。といってもいつもより数倍遅いスピードだけれど。
医務室まで付くと、ほっとして笑みがこぼれた。マダムポンフリーは訳を言わずとも察してくれるだろう、女性だもの。
まるで楽園の扉を開け放つような心持で、医務室の扉に手をかけた。


「失礼します!あの、鎮痛剤を頂きた・・・」


医務室を開けると聞こえるはずの、マダムポンフリーの声が聞こえてこない。
足早に中へ入り、辺りを見回した。ベッドにはぽつぽつと体調が悪い者やケガ人が寝ているというのに、
いつも世話しなく看病をしてくださるホグワーツの母、マダムポンフリーの姿が見当たらなかった。
毎年何度もこの医務室はお世話になるが、ここ5年間マダムポンフリーが不在だった事なんてない。




(いったいどうしたんだろう、むしろ、私はどうすればいいんだ!)



「あら、Ms.。どうしたのですか、授業に遅れますよ」


扉を開け放ったまま、愕然と医務室を見ていた背後から凛とした声がした。
振り返るとマクゴナガル先生が訝しげにこちらを見ていた、これは天の助けだと言わんばかりに先生に駆け寄り、


「先生!私、あの、鎮痛剤が欲しくて!でもマダムポンフリーがいらっしゃらないんです!あの私・・・"アノ日"で」


ちらりとベッドに横たわる男の子を目を向けながら、説明としては不十分な言葉を、
マクゴガナル先生はしっかりと意味を理解してくれた。


「マダムポンフリーは今しがた、一年生の授業中に出たケガ人の所へ向かってしまって不在なのですよ」

「で、では先生が変わりに・・・!」

「残念ながら、私ではここの薬などを生徒にわたす事は出来ないのです」

この鉛から解き放たれる希望が、脆くも崩れた。

「ですがマダムポンフリーに伝えておきます、次の授業後にまた医務室へいらっしゃい」


もう一分も耐えていられない、そう先生に詰め寄りたかったが、諦めた。そんな子供みたいに駄々をこねて呆れられたくなかった。
では早く授業へ向かいなさいと、マクゴナガル先生はにっこりと医務室から出て行った。


どうしよう・・・もう授業までは5分しかない、諦めてあと一時間この痛みにを耐えなければならないのか。
そう思うとまた、鈍い痛みが増し、痛みから吐き気を再び感じた。
気分の持ちようなのだとわかってはいるのだが、如何せんこんなに"アノ日"で体調を崩したことがない。


ハーマイオニーのように、自分で薬を煎じられればよかった・・・
何よりもう少しちゃんと、スネイプ先生の授業を聞いていれば・・・


はっとした。否、ピンときた。



(・・・そうよ、スネイプ先生がいるじゃない!)


鎮痛剤といわずともありとあらゆる薬品がスネイプ先生の自室や保管庫にはあるじゃないか。
一縷の助け!男性だからとか、そんな事はもうどうでもいい! この痛みから救ってくれるような人(というか薬を持っている人)はもうあの人しかいない!
そう思ったと同時か、スネイプ先生がいるであろう地下室へ走った。















メニューへ戻る next




   
inserted by FC2 system