やさしく、やさしく雪が舞い降りる



























"おとぎばなし"にあしを踏み入れて































今夜は18回目となる素敵な素敵な夜、クリスマス。
はクリスマスの雪が降る夜には必ず思い出すお話がある。
私が小さい頃、おばあさまがクリスマスの夜に聞かせてくれた悲しいけれど素敵なお話を。

おばあさまが出会って恋をした、エドワードのお話。 エドワードの話を聞いてから、彼女の心の中には彼が住み着いたようにずっと離れなかった。 その想いは、クリスマスをむかえる度に増していくのだ。


エドワードの屋敷へのゲートは封鎖され、立ち入り禁止となっているけど、は偶然にも抜け道を見つけてしまった。 初めは言いつけを守り、見てみぬふりをしていたのだが、日が募るに連れていてもたってもいられなくなった。 抜け道を見つけてからエドワードの屋敷へ行こうと決心したのに、そう時間はかからなかった。






「す、ごい。こんな所、住めるのかしら」






遠くから見れば小高い丘に立つような、石積みのただの古い屋敷だった。
だが実際、抜け道をくぐり草の生い茂る荒れた道を踏みしめ進んでいくと、
屋敷へ近づく者を拒むかのように縦横無尽に草木が生い茂っていた。
掻き分けて進まなければ、到底玄関まで行けそうにない。
はスカートとパンプスという格好をチョイスした自分を呪った。






「いたっ、手が傷だらけ。くそー・・・」






草を掻き分けた手にはうっすらと切り傷が出来たが、やっとの思いで扉までたどり着いた。
が、いざ扉を目の前にすると、自分はどうすればいいのだろうかと迷った。

この中に入って私は何をするつもりだったのだろうか
エドワードという人物が本当にいるのかどうか、だろうか。
少なからずおばあさんの素敵な話から私はエドワードに興味を持った。
だから会って見たい。 そう、もし本当にこの中にいるのなら私は会ってみたい。

扉にある来客を知らせる取っ手をコンコンと二度叩いたが、中からの返事はない。 何度叩いてみても中からは何も聞こえない。廃墟同然の雰囲気は徐々に怖さを増してきた。






「そう、よね。いままでずっと、ここにいたなんて保障は何一つないわ」






とゆうか、むしろいない確立の方が高いだろう。
開かないだろうと思いつつもはドアノブに手をかけた。
するとギィという鈍い音と共に、いとも簡単にドアは開きを招き入れた。






「あいちゃった。・・・とりあえず、おじゃまします」






カツンと床が鳴る。 外とは対照的に何も無い質素な雰囲気。
ガランとしたエントランス、本当にただの廃墟の空間。






(おばあさんの話の通りだわ、何もかも、このエントランスも。)






閉め切られた空間は少しほこりっぽかったが、階段の方から新鮮な空気が流れてくるのを感じた。 階段もおばあさんの話に出てきていた、そこを上がると屋根にぽっかり穴があいた部屋に出る、と。






(そこでおばあさんはエドワードと最後の別れをしたって、悲しそうに、話していたわ。)






階段を上がると、おばあさんが話した通りの光景が広がっていた。
ざっと歩いてみたけれど、どこにも人の気配は無い。






(きっともういなくなってしまったんだろう。うん、引き返そう)






そう思い階段へ行こうと歩き出すと、
屋根の穴から射す光の届かない、奥の暗闇にきらりと光ったなにかがあるのが見えた。
ゆっくりと目を凝らしながら近づいてみると、そのなにか、はとても見事な氷の彫刻だった。






「なにこれ、きれい」






あまりにも繊細で美しい彫刻。
触れようと手を伸ばすと手のひらにひんやりと冷たい感触を感じた。




(あれ、ここに氷の彫刻があるということは)


「きみは、だれ」

「きゃ!」






エドワードがいるということ。という結論に結びつく前に背後から声をかけられ、 の口からは可笑しな声が出てしまった。 驚きと同時に振り返ると、そこにはおばあさんの話の中にいた両手がハサミになっている、エドワードが立っていた。

の顔を見たエドワードは驚きで目を見開き、「キム・・・」と呟いた。
そのまま逃げるように後ずさりをし、足をもつれさせ後ろへ転んでしまった。

驚くのも無理はない、私はおばあさんの若い頃にそっくりだと、生き写しのようだと言われているから。 きっとエドワードも私をおばあさんだと勘違いをしているのだろう。






「えっと・・・こんにちはエドワード。私は・・・」

「違う、キムじゃない・・・似ているけど、違う」

「・・・え?」

「君はキムに似ているけど全然違う、それにキムは、もうここへは、こない」






だんだんと声は小さくなり、最後は消えてしまいそうなほどの声。
その声と表情は、泣き出してしまいそうなほど、悲しいものだった。






(まだ、おばあさんが好きなのね。)






「エドワード、私はよ。あなたに会うために、ここへきたの」


にっこりと笑顔をむける私の顔を不思議そうに見つめるあなた。
あなたに話すことが沢山あるわ。






悲しみに染まった貴方の心を、私は癒せるかしら?









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